ベトナム 大衆食堂

ここ数年、首都ハノイ/ホーチミン市における外食産業の活況が話題になっています。多くのネット記事は食べ物/お店/値段等の情報を提供しているが一般客の外食消費支出面での情報は限られています。

ベトナムでは生活モニター(都市部/地方の一般家庭を対象にした暮らし/生活支出等)のデータは少ないので勢い政府統計の所得/支出データに頼らざるをえません。今回は標題の外食支出を見てみましょう。

ジェトロは定期的にベトナム政府統計を基に一人当たりの月間所得/支出を公表しています。所得及び支出の双方が公表されている直近のデータは2018年です。都市部の全国平均一人当たり月間所得は562万ドン(VND)、月間支出は350万ドンでした。

所得に対する支出の比率は62%でした。因みに(所得-支出)は貯蓄或いはローン返済原資と推測します。さて、驚くことに支出に占める食費と外食費の割合はそれぞれ37%、17%でした。何と「食」に係る支出が全体の54%なのです。

社会主義国で他の支出(教育、通信、交通、医療、住居維持等)は低いとは言え「食」に係る支出は重い負担のように見えます。

2020年、政府統計の一人当たり月間所得データでは都市部全国平均の値は554万ドンでした。コロナ禍で2018年の値より低くなっています。都市部の所得データは階層別(5段階)になっており、グループ5(最も高い階層)の平均所得はハノイで1,206万ドン、ホーチミン市で1,187万ドンでした。

都市部全国平均の2倍以上です。おそらく、両都市の高い所得が両都市の外食支出を支えているのではと推測可能です。因みに都市開発が進むビンズオン省(ホーチミン市隣接)の月間平均所得は702万ドンで全国トップでした。

一世帯当たりの平均家族構成人数は3.5人です。ここで、一世帯当たりの月間外食支出額を推定するために、世帯所得(一人当たり月間所得x3.5)、支出/所得比率(62%)、支出に占める外食の割合(17%)を適用すると、2020年値で、都市部全国平均で204万ドン、高所得層グループ5でハノイは444万ドン、ホーチミン市は438万ドンでした。

米国ドルに換算(2020年の平均為替レート、US$1=VND23,100を適用)すると、都市部全国平均で88ドル、グループ5でハノイは192ドル、ホーチミン市は190ドルでした。

さて、この世帯当たり外食支出額をどのように理解したら良いのでしょうか。外食は、家族、友人、職場同僚、一人(ランチ)等が想定されます。高級レストランで一回の支出額(家族3人を想定)が50~70ドルになる場合、平均所得の世帯は行くのを控えるでしょう。

しかし、高所得層の家族なら月一回の50~70ドルの支出なら実行するかもしれません。おそらく、高所得層家族は給与というフローでなく貯蓄というストックが平均所得家族よりもかなり高いのかもしれません。従って、高級レストランでの支払いに何らの制約はないのかもしれません。

あなたが外食産業あるいは個人経営の飲食店に従事する立場ならMass(大多数)を形成する平均所得層に目を向けるでしょう。その際、給与所得者の昼間の飲食であるランチは大きな市場です。

しかし、価格はどうでしょうか。ネット配信のLOCO TABIによる調査では、マクドナルドのダブルチーズバーガーは55,000ドン(=2.4ドル)、チップスは25,000ドン(=1.1ドル)、スターバックスのモカは85,000ドン(=3.7ドル)です。チーズバーガーとチップスを食べてその後にモカを飲むと合計7.2ドルです。

都市部全国平均所得者の外食支出(88ドル)が多数の外食購買力なら一回で支払う7.2ドルは大変高い価格であることは容易に想定されます。ベトナムには安く提供できるコン・ビン・ザンと呼ばれる大衆食堂があります。

TNK Japan配信の「本当は教えたくない絶品ローカル食堂」を見ると、まるで30年前のホーチミン市裏通りをイメージさせる一画にワンプレート(一枚のお皿)に具材とチャーハンを盛った大衆食堂を紹介しています。値段は高くても50,000ドン(2.2ドル)止まり。この値段以下なら平均所得層のランチを賄えるでしょう。

しかし、ビジネス街、都市開発が進むエリアでは大衆食堂は過去の良き思い出になりつつあります。このような状況下、オフィスに努める給与所得者は自宅でお弁当を作りそれを持参する方が増えていると聞きます。

但し、毎日のお弁当は外食でなく「食費」の範疇です。また、毎日のお弁当持参は大変な労力です。そこで、フードコートのような発想でなく、コンビニ店舗内、あるいはランチ食の移動販売、中食(大衆食堂のそれぞれのメニューがパッケージされた商品)を簡単な調理で提供できるサービス業(中食レストラン)が考えれます。

オフィス街の形成と伴に新手の外食ビジネスが現れると言うのは言い過ぎでしょうか。