パーム油

一般的に「食」に使用する油で頭にひらめく用語は「サラダ油」ではないでしょうか。多くの人はこの「サラダ油」の定義を知らずに日常的に口にしています。さて、「サラダ油」に入る前に、「食」に使用する油は総称して食用油、その食用油は動物性油脂と植物性油脂に分けられます。英語ではEdible Oilです。現代人は後者の植物性油脂(植物油)を使用しています。

英語ではVegetable Oilです。なぜ、植物油利用が多いのか。それは健康維持の面だけでなく植物油は複数の精製工程を経ると低温でも結晶化しない味や匂いにクセのない精製油が出来るからです。

そうなんです。このクセのない精製油を「サラダ油」と呼んでいます。サラダ油、英語ではSalad Oil、実は日本の日清製油が1924年に世界で初めて世に送り出した日本発の製品でもあり呼び名でもあります。

植物油は、1)原料による分類、2)精製度による分類、3)用途による分類、4)栄養素による分類と様々です。

1)は、オリーブオイル、ごま油、なたね油、大豆油、エゴマ油—等です。
2)は、エキストラバージンオイル、半精製油、精製油、サラダ油です。
3)は、天ぷら油、サラダ油です。
4)は、植物油に含まれる不飽和脂肪酸(コレステロール値を低下させる効力)であるオレイン酸、リノール酸の含有量による分類です。

複雑で一度に理解できないですね。植物油の製造工程は大きくi)搾油とii)精製に分けられます。i)は、原料精選、加熱・破砕、搾油です。搾油段階は原油と呼ばれます。ii)は、原油の不純物を除くため、「脱ガム(リン脂質除去)」、「脱酸(遊離脂肪酸の除去)」、「脱色」、「脱ろう(低温で固めるろう分除去)」、「脱臭」の作業を行います。

精製は精度の低いものから、エキストラバージンオイル(オリーブオイル等)、半精製油(ごま油等風味を残す油)、精製油(脱色、脱臭を経た揚げ物に使用するてんぷら油)、サラダ油(冷却安定性基準をクリアした最も精製された油)です。サラダ油は、なたね、大豆、コーン、ひまわり、ごま、べにばな、綿実、米、ぶどうの9種類の原料に限定して精製される油です。

精製度の低いエキストラバージンオイルは風味が強く、精製度の高いサラダ油は風味が弱く油が固まったりしないのでドレッシングとしても使用されます。日本ではこのサラダ油を揚げ物に使用することが多く正にオールマイティ使用の油です。日本のサラダ油メーカーは各植物油の特性を考え大豆油となたね油の調合油を生産する技術は世界トップクラスです。

さて、ベトナムにおける植物油消費市場に関し世界市場を包括する「Oil World」を見ると、2019年時点での(植物油&動物性脂肪、Oil & Fat)の消費量はおよそ150万トンです。消費の内訳は、パーム油(58.5%)、大豆油(18.0%)、ラード(14.3%)、その他の植物油(9,2%)です。

地方では動物性脂肪が使用されており統計にも表れています。植物油消費量はおよそ129万トン、パーム油が最も多く87万トン、次いで大豆油27万トン、その他(落花生油、ごま油、ひまわり油、米油等)15万トンです。

パーム油のほぼ全量はマレイシアとインドネシアから輸入されています。大豆油もほぼ輸入に依存しています。そもそも原料である国内大豆生産は2018年時点で僅か8万トンです。これは、生産者である農家が利益をもたらさない作物とのことで生産から手を引いており収穫量は年々減少し将来は更に減少します。

国内の搾油(原油)生産能力は20万トン程で精製油はその60%、およそ12万トンと推定されます(大豆精製油の統計は公式に出ていない)。従って、原料不足、大豆精製油生産能力の理由で大豆油国内需要(27万トン)の半分以上を輸入に頼らざるを得ない状況です。

2019年植物油消費量129万トンを全人口(2019年人口、9646万人)で割って計算される一人当たり消費量は13.4kgになり、これは米国の39.2kg、EU平均の24kg、日本の17.1kgより下回りますが、数年前まではベトナムの一人当たり植物油消費量は7kg程度(公式統計はない)と言われていただけに急速に消費量が伸びていることが推察されます。

Q & Me(市場リサーチ会社)による「ベトナムのクツキングオイル利用状況」を見ると、Cai Lan Oils and Fats Industries Company Ltd.,が生産するブランド商品(Neptune、Simply、Meizan、Kiddy、Cai Lan)が売れ筋の上位を占めています。

この会社は、ベトナムの国有企業であるVietnam Vegetable Oils Industry Corporation(Vocarimex)とシンガポールのWilliam Internationalの合弁企業です。SimplyとNeptune商品では大豆精製油(refined oils)のプロダクトも品揃えされています。

これらが日本のJAS基準に則る「サラダ油、脱臭/脱色された最高品質の精製油」に相当するかはわかりません。ベトナムではメーカーがサラダ油で表示することはないので、ベトナム駐在の日本人が食用油商品を選ぶ際に困るというようなことも聞きます。

ベトナムの食用油業界では、食品総合大手のKIDOが食用油大手企業であるTuong An Vegetable Oil Company、前出のVocarimex、Golden Hope Nha Be Edible Oils Companyの株式取得を通して系列傘下に入れています。

政府は需要急増を睨み既存食用油会社の統合を通してより質の高い精製油生産増加を期待していますが、Cai Lanのケースでもわかるように外資の技術/品質向上/マーケティングに係るインプットは重要です。もともと、KIDOが食用油3社を傘下に治めようとした理由は熾烈な価格競争で3社の利益保持が危うくなったからです。

今後、最大のネックである国内の原料不足に鑑み、原油輸入を通してベトナム消費者の嗜好に合う精製油生産が期待されます。日本の食用油メーカーは未だ本格的進出に至らないですが、第三国での原油調達→ベトナムでのサラダ油生産→国内販売及び輸出のようなビジネスが成立すれば面白い展開が期待できるかもしれません。