vietnam shrimp

ベトナムは漁獲・生産で上位に位置する水産の国です。世界におけるベトナムの水産ビジネスランキングは:

海水エビの漁獲量 世界第4位
淡水養殖エビの生産量 世界第3位
マグロの漁獲量  世界第16位


圧倒的にエビが上位を占めています。

ベトナム国内向けの水産物は淡水魚の白身(パンガシウス)、焼き魚、揚げ魚などが国民の常食であるため、漁獲・生産の多くは輸出に回されます。その水産輸出は食品部門でトップの地位を占めており、2019年の水産輸出全体は86億米ドルでした。

その内、エビは40億米ドルですので、ベトナム水産の稼ぎ頭です。こういった状況を踏まえると、ベトナムの水産ビジネスは圧倒的に輸出に頼ったビジネスモデルになっていきます。

エビをめぐる商社ビジネス

ベトナム最大の水産養殖・加工会社は、ミンフー・シーフード・コーポレーション(ミンフー社)になります。同社は漁獲生産 → 加工 → 輸出まで行う「垂直統合型のビジネス」を行っており、米国や日本に輸出しています。

2019年、世界的にも有名なミンフー社の株式を三井物産が取得しました。三井が有する世界マーケット情報を駆使して、ミンフー社の輸出戦略を担い、輸出増進を狙う大規模な商社ビジネスです。

ちなみに、日本は世界エビ輸入量の三分の一を占めるエビ消費大国なので、三井のミンフー経営への参画は、ミンフーにとっても有利に働きます。

ベトナム南部に位置するカマウ省とバクリュウ省にミンフー社が所有する巨大な汽水域養殖池があり、そこから世界にブラックタイガーエビとバナメイエビを輸出。

特に米国はエビ加工品「バナメイエビのフライ」の最大輸入国なので、米国と日本が一番のお得意先と言ってよいでしょう。これは、日本の大手商社とベトナムの大手水産加工会社が手を取り合う典型的なビジネス例です。

21世紀的な環境配慮型ビジネス

エビ漁獲・生産は、「海水エビの漁獲」と「淡水エビの生産」に大きく分けられます。

後者の生産は、海水と淡水が混在した汽水域での養殖が多くを占めます。しかし、汽水域養殖はマングローブ林の除去、養殖池での大量生産に伴う化学物質を含む餌の投与等で、養殖池周囲環境が悪化し続けており、ここ数十年にわたり問題視されてきました。

そこで考えられた手法が「粗放養殖(そほうようしょく)」です。大量生産型である「集団養殖」とは区別されており、大きく下記の3点を重要視した生産方法になります。

・汽水域の自然環境を大切にする
・化学的物質を含む餌を投与しない
・何よりも生産者の顔が明確であること

収穫後の袋詰め・搬送過程の安全管理を行う地元業者が存在することで、食品の安全と環境配慮を前面に掲げています。

長年、生活協同組合(生協)はインドネシアを皮切りにこのビジネスを実施しており、ベトナムではカマウ省の汽水域エビ養殖を「粗放養殖」で実施、日本にブラックタイガーエビを輸入しています。規模は小さいですが、生協らしいビジネスです。

鮮魚バリューチェーン型ビジネス

世界的な和食ブームの中で、特に寿司ネタである鮮魚の安定的供給はベトナム及び隣国タイにおける日本食レストランや、寿司ネタを取り扱う卸商社には非常に重要なポイントです。

ニチレイフレッシュ(ニチレイの子会社)は、現地水産会社との共同出資で合弁会社を設立して、鮮魚バリューチェーン型ビジネスをベトナムを起点に拡販する予定です。割鮮ボイルエビはその代表商品です。

さて、なぜ中国でなくベトナムが起点なのか。鮮魚バリューチェーンに不可欠な漁獲地と加工地の近接、食品加工安全の徹底度等、ベトナムに軍配が上がったのでしょう。ニチレイはエビ以外のネタも開発中です。

研究開発に基づく商品開発/サービス提供ビジネス

2019年、新潟県のタケショー食品はベトナム南部カントー省のカントー大学と共同研究の契約を締結しました。

手始めに自社が扱うエビの副産物の開発、栄養・健康保持に留意する介護施設で提供する食事メニューの開発等を共同開発して、ベトナムに普及させる計画を発表しています。

2021年10月におよそ800万ドルの投資資金でカントー市に工場を建設する予定で、調味料開発、福祉関連施設/学校/民間会社社員食堂を対象に食事提供システムを構築する予定です。

裾野の広いビジネスとして将来のビジネス進展が期待されます。

観光振興/六次産業化/水産インフラ輸出の連携

2018年、経産省が主導するインフラ輸出戦略にのっとり、ベトナム最南部キエンザン省への進出を計画している山口県の水産企業らを対象に、(株)日本総合研究所は「地域連携によるベトナム南部への水産インフラ導入」という報告書を公表しました。

本報告書はおおよそ10年に及ぶ水産インフラの投資計画です。

漁獲生産供給インフラの側面に焦点を当てており、水産需要の掘り起こしとしてフーコック島(キエンザン省に近接)の観光振興が挙げられます。観光振興の目玉として白砂ビーチでの滞在型観光に合う高級海鮮魚を食すレストラン事業、レストランに供給する海鮮食材の加工と水産インフラをキエンザン省に建設するアイデアです。

フーコック島はベトナムでは有名なリゾート地であり、今年の4月にベトナム初の24時間・年中無休リゾート「フーコック・ユナイテッドセンター」が開業したばかりです。

従って、観光拠点に水産ビジネスを組み合わせることは、観光需要に助けられる水産ビジネス振興になるかもしれません。