ベトナムの野菜・青果物輸出ビジネスの動向

ベトナムの代表的農産品と言えばカシューナッツやコーヒー豆で、全世界に輸出されており同国の輸出産品の「顔」とも言えます。一方、政府は輸出農産品の多様化政策にのっとり、野菜・果物の輸出に力を入れています。日本もカシューナッツをベトナムから輸入しています。

しかし、野菜・果物の輸出額は30億米ドル(2019年)で同年農林水産輸出額(413億米ドル)の7%に過ぎません。野菜・果物輸出の大半は中国市場向け(およそ28億米ドル)で、ベトナム政府としては脱中国としてEU及び日本への輸出を期待しています。

一方、2019年に日本がベトナムから輸入した野菜・果物金額は、わずか1億米ドル(ベトナムの野菜・青果物全輸出の3%ていど)です。

近年、日本の食市場は外食/中食ビジネスが増加しており、特に冷凍野菜需要は今後も増加することが予想されます。今回は、農畜産業振興機構の野菜情報(2017年12月号)「ベトナムの野菜の生産、流通及び輸出の現状」を参考に野菜輸出ビジネスを、果物は加工技術に焦点を絞り検討します。

  • ベトナムから輸入している野菜・果物

野菜は、生鮮野菜(にんじん、かぶ)、冷凍野菜(ほうれん草、スイートコーン、混合野菜)、塩蔵品(きゅうり、ガーキン、しょうがの漬物)、さつまいも等です。果物は、生鮮(マンゴー等)、冷凍品(パイナップル、マンゴー)、調整品(ジュース類)です。

冷凍の混合野菜と冷凍果物の輸入増加が顕著で、日本の食市場の変遷(外食/中食の需要増加)によるものと推測されます。また、塩蔵品は中国からの輸入が大半でしたが、食の安全面で輸入先をベトナムにシフトしたため塩蔵品の輸入も増加傾向です。

  • ダラット高原に続く日本輸出向け野菜生産地確保

ベトナムは、果菜類(トマト、ナス、きゅうり等)、根菜類(ダイコン、かぶ、ニンジン、ゴボウ等)、菜茎類(からし菜、きゃべつ、空心菜、ほうれん草等)を対象に露地栽培を主体とする作型が中心で温室栽培は普及していません。

野菜生産地域は主に紅河デルタ地域(ハイズオン省等)、中部高原地域(ラムドン省ダラット高原)、メコンデルタ地域(ティエンザン省、ソクチャン省)です。日本向け輸出の生鮮野菜と冷凍野菜の大半はダラット高原の野菜です。日本の輸入者の厳格な管理の下で栽培されておりコールドチェーン(生産地からホーチミンまでの輸送、ホーチミンから日本までの海上/空輸)の体制も整備されています。

今後、日本向け生鮮野菜と冷凍野菜の輸出増加を見越し、ダラットに続く生産地確保は大事です。その候補としてハイズオン省と北中部のタインホア省が挙げられます。

前者は大消費地ハノイ向けの生鮮/冷凍野菜を生産販売する企業(Hung Viet Co, Ltd)が日本輸出に積極的で日本企業もポストダラットの候補地として考えているようです。

後者は3つの生産販売企業(Tu Thanh社、Thanh Hoa社、Dong Xanh社)が輸出業者を通して日本向けにほうれん草/ライチ/スイートコーン等の冷凍品を輸出しています。

高品質を保つためにも契約農家によるViet GAP認証取得は必須なのですが、認証取得の壁は高いです。ダラット高原における契約生産者(多くは協同組合、あるいは、より法人に近い協同グループ)に習い、ハイズオン省/タインホア省の契約農家を選定及び組織化し輸入業者による管理の下で栽培出来ればViet Gap取得は困難ではないでしょう。

Viet GAP取得に向けて温室栽培の技術も必要になります。契約農家の組織化が困難な場合、日本企業による自社農場設立も考えられます。現行の投資制度では自社農場の設立は規制対象になっていません。

  • 加工技術

加工技術は、半加工(冷凍、同種混合、異種混合)、加工(製粉、加熱)に分けられます。冷凍野菜は半加工に属しブランチング処理(野菜の変色を防ぐために軽く湯通しを行う)を必要とし、また混合野菜のカットは技術を要し(日本の制度では混合野菜のカットは加工になる)、相応の設備投資は必要です。果物の調整品(加糖等)は加工品類に属します。ベトナムでは加工技術は未だ高度化されていません。従って、日本向け輸出の産品加工/製造の合弁会社を日本企業主導で設立することが求められます。

  • コールドチェーンの構築

前述のベトナム企業は近接消費地向け野菜輸送を行う保冷小型車を有していますが,、日本向けのコールドチェーン対応は容易ではありません。近年、日本の鴻池組等の運送業者がベトナムでのコールドチェーン形成にビジネス展開をしています。在ベトナム鴻池と日本の輸入業者が手を取り合うB to Bのチェーン構築はポストダラットの日本向け野菜果物輸出に不可欠です。

現在、ベトナムは食品加工部門へのFDI(外資による海外直接投資)が増加傾向にありますが、その多くは水産加工、飲料、製菓部門です。ベトナムは農産物生産国ですがほぼ自国消費に終わり、輸出は品質と加工技術の壁により展開が難しい状況です。おそらく、政府(農業・農村開発省、MARD)は野菜果物部門へのFDIを期待していると推測します。