ポッキー

お菓子は、1)チョコレート、2)飴、3)チューインガム、4)ビスケット、5)スナック、6)米菓に分類されます。三井住友銀行企業調査部が作成した「菓子メーカーの動向と戦略の方向性(2019年3月)」によると、差別化として3つの方向性(健康・機能性、プレミアム、Eコマース)を指摘しています。

これを商品に適用すると、健康・機能性はチェコレート/飴/チューインガム/ビスケット、プレミアムはチョコレート/ビスケット/スナック/米菓、Eコマースは全てとなります。

例えば、健康・機能性では明治製菓は高血圧/動脈硬化回避に効果あるカカオ含有量の多いチェコ生産、あるいは森永製菓はウェルネス領域での機能性を追求するゼリーを主体とする商品生産、プレミアムでは既存売れ筋商品に付加価値(食感、旨味、高級感)を付け加えたチェコ/ビスケット/スナック/米菓の商品生産(多くは小袋で価格は既存商品より高い)、Eコマースでは日本メーカーの多くは海外市場(特に中国)で全商品を対象にしています。

上記は商品類別の方向性を理解する意味ではよく整理されています。さて、あなたが菓子メーカー商品開発部の一員として商品開発のコンセプトを任される場合、方向性の概観は理解できても独自性の捻出は別物です。その「独自性」とは何でしょうか?健康・機能性、プレミアムと異なる差別化を指しているのでしょうか?

独自性のお菓子としてネットでは江崎グリコのポッキーが例示されています。およそ40年というロングランの歴史を有す同品は世界で売られており、棒にあたるプリッツの食感(サック感)を保つ焼き具合、プリッツを巻くチョコとプリッツ食感のバランスに配慮する商品としての特異性、子供のおやつ/大人の飲酒に合うパートナー菓子、それに保存食と幅広い利用機会、何よりも上記の商品類を横断するチョコでも良し、スナック/ビスケット代替でも良し、しかも棒状で2袋(一箱に3袋)程度ならあっという間に食べることが出来、売り上げ増進に寄与する何とも不思議なお菓子です。

これは、独自性の観点で最大のヒット商品と筆者は思います。

森永製菓のハイチュウも独自性を例示する商品です。キャンデーとチューインガムを併せ持つ同品は味も良し、チューインガム感覚で食べることが出来、チューインガム大国の米国(テレビ観戦に映るメジャー野球選手の多くはくちゃくちゃ口を動かしている)で爆発的人気を博したことはうなずけます。今や、東南アジア、欧州にも浸透し、このハイチュウも日本独自性の商品に列挙されます。

三田村蕗子氏(フリーライター)は日本の独自性を出す菓子(ハイチュウ、ポッキー、かっぱえびせん)をガラパゴス菓子と呼び、その商品力の強さを同氏執筆の「日本のガラパゴス菓子が海外で大人気のわけ」で記しています。

通常、ガラパゴスという語彙は日本の技術が外部の進化する技術に適応せずに取り残されるネガティブの解釈ですが、「食」の領域では日本の独自性が海外市場に受け入れられれば逆に強さを発揮するわけです。海外で売れるためには、同氏はその地の食文化、生活習慣を商品に活かすこと強調しています。

また、メーカー単独で進出先市場における商品開発・展開を行うのでなく外部を組み込むことを提案しています。 さて、森永製菓はベトナム菓子市場を開拓するためにDKSH(市場拡販サービスを本業、本社はスイス)と手を組むというニュースが入ってきました。

森永製菓は、菓子(キャラメル、ビスケット、チョコ)、食品(ココア、ケーキミックス)、冷菓(アイスクリーム)、健康食品(ゼリー飲料)を製造しています。冒頭の差別化方針では健康食品・機能性食品にシフトする大方針です。

DKSHがこれら方針を見据えベトナム市場にどう切り込む方針を描くか?やはり独自性が問われるのでしょうか。三田村氏の提言を再度考えると、現地ベトナムの食文化、菓子をもう一度考える必要があるのでしょうか。

何も、ポッキーやハイチュウのようなインターナショナルに受ける商品でなくとも良いです。例えば、餡子(あんこ)は中国発で周辺国(日本、朝鮮、ベトナム)の菓子文化に影響を及ぼしています。現地は緑豆を原料とする餡子、我が国は小豆を原料とする餡子。原料は異なるが餡子文化は共有しています。

どの国でも経済発展と伴に食は少しずつインターナショナルになるのですが元来の食文化を引きずります。新しい商品コンセプトとは電光石火のようにひらめくものでなく、案外と伝統食文化や生活習慣からヒントを得ると思いませんか?